木製の長椅子。それなりに重いはずのモノが美鶴に弾かれ、最初はゆっくり、まるで倒れまいと踏ん張るようにゆらゆらと傾ぎ、だが最後には勢いをつけてバタンと倒れた。
いや、そんなことはどうでもいい。
「何すっ―――」
驚愕の表情で見返してくる相手の瞳に、瑠駆真はだが、表情を変えない。
「とりあえず」
伸ばした手を下ろす。
「キス以上までいかなければ、越されたことにはならないよね?」
美鶴は思わず両手で口を覆った。
朝の校庭。全校生徒の目の前で、瑠駆真の唇が重なった。その場には聡も居た。
だがその数日前に、美鶴は聡に押し倒されている。
瑠駆真はその事実を知らない。
聡に押し倒され、必死に逃げて雨の中へ飛び出した。後で瑠駆真に理由を問われ、口げんかをしたと伝えてある。
事実を、知らせる必要はない。
円らな瞳に耐え切れず、視線を落す。
美鶴が微かに怯えているのを感じたのか、瑠駆真は立ち上がって、机から離れた。
座るように促すと、美鶴は戸惑いながらも両手で椅子を元に戻す。手伝おうとしたが、警戒したような態度を見せるので、瑠駆真は近づかなかった。
この間のこともあるし、警戒するのは当然だよな。
美鶴の目の前で我を忘れるという失態を犯してしまった自分に、気が立つ。
別に名前なんて、どうでもよかった。ただどうすればいいかと問われて、とっさにそう思っただけなんだ。
「名前で呼んで」
だって聡のコトは、名前で呼ぶじゃないか―――
「ごめんね」
美鶴の頬へ伸ばした手を凝視しながら、ポツリと呟く。
「驚かすつもりはなかったんだけど、ちょっとやり過ぎたかな」
アンタは十分、やり過ぎてます。
「でも、どうにも納得できなくてね」
意味がわからず視線で問う。瑠駆真は見つめる掌を握って、口を開いた。
「あれじゃあ、しばらく来れなくなるって言うのにね。僕と君とを二人っきりにさせて……… ずいぶんと、余裕だなって」
「え?」
来れなく…… なる?
瑠駆真は肩を竦めた。
「聡のヤツ、バスケ部に仮入部したんだよ」
やっぱり知らなかったんだね と付け足して、笑った。
バスケ部……
それはだが、別に意外な事実ではない。バスケ部員から誘いを受けていると、何度か聞いたことがある。
聡本人はその気もないのだが、やたらとしつこく、少々うんざりもしていたらしい。
勧誘に来ていたのは確か、同じ二年の男子生徒。一組の蔦という生徒だったはずだ。主将を務めているらしいが、バスケ部員にしては少々背が低かったように思う。
この駅舎にも一度だけ姿を見せたことがあるので、美鶴も知っている。その時の聡の苛立ちようがあまりにひどかったので、それも印象的だ。
あんなに嫌がってたのに……
ふと湧いた疑問に、慌てて首を振る。
私には関係ないじゃないかっ
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